帝国支配の本質とその統治構造!

トランプ時代を迎えた世界の緊迫した情勢を帝国をキーワードに把握し、世界及び日本の在り方を包括的に検討し、アメリカがアメリカファーストに走る状況下での日本、中国、中東、欧州の対応を構想する。 

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トランプ大統領が強調する不法移民流入制限の根拠は魏晋南北朝時代の中国の混乱が証明する!

      2018/08/09

移民排斥大統領令

トランプ大統領は移民制限を行い、移民の無秩序な流入が国家崩壊の根源的理由との立場を原理的に堅持して民主党と対立し、一時的な政府機関閉鎖もやむなしとの構えですが、中国の魏晋南北朝時代は、まさにトランプ大統領の警戒する大量移民流入による国家崩壊のモデルと言えるでしょう。

1.中華帝国大一統の必須四条件
2.魏晋南北朝時代の中国の混乱要因
 1)「中華帝国大一統」のメカニズムを揺るがした第一の混乱要因
  ①トランプ大統領の警戒する移民大量流入と同様な西北少数民族の影響の拡大と漢族の人口減少
  ②トランプ大統領も強調する移民大量流入の弊害としての漢族の人口減少が誘発する混乱要素
 2)「中華帝国大一統」のメカニズムを揺るがした第二の混乱要因
  ①魏晋南北朝時代の知識人に広まっていた消極性と仏教の伝来
  ②儒家正統の国家統治イデオロギーとしての地位喪失と仏教の影響力拡大
  ③外来文明の衝撃としての仏教とその受容過程

1.中華帝国大一統の必須四条件

伝国の璽

中華帝国の統治構造の研究者である金観濤によれば「中華帝国が大一統を維持」するためには、以下の四条件が必須である、との認識を示しています。(1)

①連絡の機能を担える強力な階層が社会に存在する
②この階層が統一的信仰を有し、かつ積極的な統一的国家学説を有する
③官僚により管理される郡県制が社会に行われている
④統一的な信仰を持った階層を用いて官僚機構が組織されている

しかるに、ここで取り上げる魏晋南北朝時代に関しては、上記の4条件はどれも崩壊しており、その帰結として「中華大一統」は解体し、塀に囲まれた荘園が林立し、身分的従属関係の強化が観られ、儒家が正統的地位を喪失して、仏教・玄学が流行するなど、他の王朝とは異なる中国史上における変則的な時代となってしまいました。(2)

基本的に理念的にも実際の天下の支配状況も「中華大一統」の実現を至上命題としてきた中国にとっては、このような魏晋南北朝時代の混乱は、まさに変則的例外的な時代であった、ということになるでしょう。
さらに、この時代の混乱要因を子細に検討していくと、トランプ大統領が政策の根幹の一つとして早速大統領令を発した「大量移民流入問題」が、浮かび上がってくるのです。すなわち大量移民流入問題への適切な対処が「中華帝国大一統」の維持にも死活的に重要であったとともに、アメリカの体制維持のためにも必要不可欠である、というのがトランプ大統領の主張ということになるでしょう。

そういう意味では、中国の魏晋南北朝時代の混乱と亡国の危機の状況は、トランプ大統領の移民政策にとって、まさに政策立案のためのモデルケース的な格好のサンプル事例を提供していると言えるかもしれないのです。

2.魏晋南北朝時代の中国の混乱要因

金観濤によれば、魏晋南北朝時代にさまざまな変則的現象が現れたのは、中華帝国が伝統的に安定した統治を続けるために維持してきた「宗法一体化構造」が様々な要因の撹乱を受けてその調節機能を失ったこと(3)に原因があると言います。
すなわち、魏晋南北朝時代の中国は、他の安定した時代に比べて様々な混乱要因が、ひと際拡大していたということです。それでは、魏晋南北朝時代の混乱要因とは、どのような現象を指していたのでしょうか。

1)「中華帝国大一統」のメカニズムを揺るがした第一の混乱要因

万里の長城

①トランプ大統領の警戒する移民大量流入と同様な西北少数民族の影響の拡大と漢族の人口減少

古来から中国に対しては、西北少数民族が大きな影響を与えてきたわけですが、何故魏晋南北朝時代に至って突如として大きな混乱要因になったのでしょうか。このあたりを分析すると、後漢王朝滅亡から三国時代を経て晉の崩壊に至る大動乱により、特に中原地域の人口が壊滅的に減少したことによる、と言えるでしょう。後漢時代の156年の人口が五千万人であったのが、263年段階になると537万人となり、ほぼ十分の一にまで減少してしまいました。(4)
中華領域におけるこれほどの人口減少が、どのような影響を社会に及ぼしたのかということですが、特に失われた人口の大半が、漢族を主体とする中核地域であった中原地帯であることを考えると、漢族の人口損耗の大きさが伺われます。
翻って後漢後期に中国に移住した少数民族は、合計870万人に達しており、後漢末期の人口5000万人に対する人口比は17%前後となりますが、西晋の人口は最も多い時で1600万人なので少数民族の人口比は54%以上に達していました。さらに南朝の漢族政権下においても事情はほぼ同様であり、例えば南朝の宋の464年の人口が5546万人余りに対して、蛮・俚・僚といった少数民族が約3000万人は居住していたということであり、少数民族の人口比は50%を超えていたことになります。(5)

現時点のアメリカの人口構成では、白人が70%強程度で黒人が12%程度となっていますが、近年メキシコからいわゆるヒスパニックの流入が続いており、今後のトランプ大統領の移民制限の厳格化の究極的な標的になっている、と想定されます。
尚、人口構成に対する中東系移民の割合はまだまだ少ないですが、いきなりメキシコからのヒスパニックの移民制限に踏み出すのは影響が大き過ぎるということもあり、テロの印象が強くアメリカ国民の受け入れやすい中東のしかも数カ国に限定して当面制限を課したものと考えてよいでしょう。
それでも、原理的にアメリカが「移民を受け入れて強くなった自由で寛容な国」という信念を抱いている、リベラルな傾向のほぼ半数の市民からは猛反発を受けているという状況でしょうか。

ともかく、今後アメリカも人口構成比が、いろいろ変動してくるとかつて中華帝国が魏晋南北朝時代に辿ったような、混乱と激動に見舞われる可能性が否定出来ないでしょう。

②トランプ大統領も強調する移民大量流入の弊害としての漢族の人口減少が誘発する混乱要素

騎馬民族
このように移民の大量流入により、中国において漢族が人口比率の上で優位ではなくなってしまいました。ある意味では、漢族も人口的には「少数民族」の一構成要素に転落してしまっていたとも言えるでしょう。このような漢族の人口減少はどのような事態を惹起することになるのでしょうか。
こうした中国の中核地域である中原地帯における人口の減少により支配階級は、積極的に辺境の少数民族を内地に引き入れて労働力に充てるようになり、漢族と少数民族の人口比問題は一層少数民族側が多数になるように傾く傾向が継続することとなりました。さらにこれらの新規に流入してきた少数民族の大多数は、遅れた氏族部落制あるいは奴隷制の段階にあったため、中国に既に存在していた「中華大一統」の要件を構成する「宗法一体化構造」にとって巨大な衝撃をもたらす要因ともなりました。(6)

英語が使えるかどうかも怪しい安価な労働力として、アメリカ国内で手っ取り早く集めやすいヒスパニックが歓迎されるということはあるでしょう。一方でトランプ大統領は、メキシコに工場を建設し、安価なコストで製造した製品をアメリカに持ち込んで、儲けるというような行き方をやり玉にあげようとしているようです。まあともかくアメリカの隣国のメキシコは、これまではアメリカの懐深くに入り込んで、結構な儲けを確保していたでしょうが、トランプ政権発足後はかなり慌て始めているかもしれません。

「中華帝国大一統」の基礎となる漢族を主体として形成されてきた「宗法一体化構造」そのものが、少数民族の人口比率拡大により、その成立基盤を掘り崩され、成り立たなくなってしまった状態となりました。さらに民族構成にこのような巨大な変化が生じた以上、かなり長い歴史的過程を経ない限り、民族の融和を完成させて混乱要因を克服することはほとんど不可能となったのです。(7)

確かに、一旦アメリカにとって、その成立基盤を脅かすような価値観の異なる移民が大量に流入した場合、流石に移民で成り立った国であるアメリカも構造的な混乱要素を抱え込むことになり、立ち直るのに相当な時間を要することになるでしょう。
トランプ大統領の出現とそのヒスパニックや中東からのアメリカのそれまでの価値観と異なる移民を制限する政策は、魏晋南北朝時代の歴史の展開を子細に検討した範囲では、アメリカの将来にとって一種の救世主的な結果をもたらす可能性も否定出来ないのかもしれません。

2)「中華帝国大一統」のメカニズムを揺るがした第二の混乱要因

儒教

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①魏晋南北朝時代の知識人に広まっていた消極性と仏教の伝来

後漢の中・後期における知識人の政治生活は厳しく士官の道も拓けていませんでした。また学術界は、退屈で煩瑣な経学の考証が主流をなしており、儒学の信仰の危機の時代となっていました。このため魏晋南北朝時代の知識人は、儒学を批判して別に活路を求めるため、諸子百家を研究したり、原始儒家の経典を発掘しようとしたので、多くの沈滞消滅していた学派が息を吹き返しました。このような諸学派の研究が儒教独尊以来の行き詰まりを打開するとともに、経学は急速に衰退することとなりました。
こうした、経学の衰退・各派学説の活発化により小規模な百家争 鳴の到来ともなりましたが、その後は清談・玄学と道家が勃興し、イデオロギー構造の主流となっていきました。(8)

②儒家正統の国家統治イデオロギーとしての地位喪失と仏教の影響力拡大

中国仏教
こうして前漢武帝時代に董仲舒により大成され、国教化された儒家正統は、その地位から追い落とされ、中国は「中華帝国大一統」の重要要件である「統一した国家学説」を喪失し、漂流することを余儀なくされるに至りました。
さらに後漢後期に伝来した仏教が、中国のイデオロギーに巨大な影響を及ぼし始めることともなりました。仏教も伝来直後には、それほど大きな影響を与えていませんでしたが、その後魏晋時代の玄学の勃興により仏教的な思想も受け入れられる範囲が拡大していき、伝播のスピードも速まっていきました。仏教は、国家の混乱状態の中で人々が逃げ場所を求める中で、心の平安を提供する役割を果たしつつ広まっていき、玄学とともに宗法一体化構造の機能不全をもたらす重大な一因を為すに至りました。(9)
本来、宗法一体化構造とは、統一した国家学説を信仰する知識人に依拠して官僚機構を組織し、封建的礼制によって家庭と国家の等級秩序を維持することをベースに成り立っており、当時の状況としては知識人が儒家の信仰を持つことが前提となっていました。(10)
そうした中で、仏教や玄学が知識人に幅広く浸透し、儒家の思想が観向きもされないありさまになると言うことは、到底安定した一体化構造を構築することは困難な状況に陥っていたと言えるでしょう。

③外来文明の衝撃としての仏教とその受容過程

中国仏教2
仏教は「中国が初めて遭遇した強力なパワーを持つ外来文明の衝撃」(11)であり、中国文明はそれをそのまま鵜呑みにすることも、真っ向から否定することもせずに、時間をかけて消化する道を選び、「中国的特色ある仏教文化」が後に開花することとなりました。
このような行き方は、今日の「中国的特色ある社会主義」「中国的特色ある資本主義市場経済」「中国的特色ある国民国家」を志向する状況と一脈通じるものがあるのではないでしょうか。

参考文献
(1)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第一章 中国封建社会の宗法一体化構造 p32
(2)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p168
(3)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p168
(4)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第一章 中国封建社会の宗法一体化構造 p168
(5)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p168
(6)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p169-p170
(7)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p169
(8)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p170
(9)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p172
(10)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p172
(11)金観濤:中国社会の超安定システム 研文出版 1987 第六章 撹乱、衝撃と準安定構造 p172

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