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帝国の定義と現在の国際情勢における帝国的存在の状況について!

ここでは、本ブログで中心的概念として取り扱う「帝国」の定義を明確化するとともに、言葉としてはよく使われるものの実際の意味が曖昧になってしまっている「帝国とは具体的にどういうものか?」についてハッキリさせながら、現在の国際環境における帝国的存在の状況について検討してみたいと思います。

1.「帝国」とは何か
 1)「帝国論」の概要
 2)本ブログで取り扱う「帝国」概念の定義
2.現代における超大国は帝国化しているのか?

1.「帝国」とは何か

1)「帝国論」の概要

・ここでは、「帝国論」の現時点における到達点を以下に提示する。

歴史上の帝国を比較の視座に置く研究として山本有造編著の「帝国の研究」があり、同書は京都大学人文科学研究所を中心に歴史学、政治学、人類学を専攻する学者が境界を超えて「帝国とは何か」に取り組んだ論考である。
この「帝国の研究」に関して言及した山内昌之の「帝国と国民」の「序章」をベースに、以下に「帝国の研究」を中心に現時点における「帝国」論の概要を再構成する。

「帝国の類型」としては、「モンゴルや大英帝国のように時代と世界を動かす超広域パワー」「広大な領域や異民族を支配する文明圏単位の巨大国家」「地域覇権国家」というようなものがある。もう少し広い意味では「普通の国家を上回る国際的な国家」という捉え方がある。
また近代国民国家以前に存在した国家として、古代帝国以来の多民族と広域を支配する「帝政国家」と言う類型がある。さらにレーニンの帝国主義は、金融資本主義段階にある「近代国家」を指す。(1)

ここからは、内外の論者の「帝国論」諸説の概要を以下に取り上げる。

マイケル・ドイルの研究では、「2つの政治社会が支配と被支配、中心と周縁の強力な支配関係」にあることが「帝国」である。また「帝国」とは他の「政治社会」の内政と外交の双方に支配的な権力を行使し、強く束縛し支配する強国を指す。
さらに「帝国の三類型」として、「中心、宗主国の内部から発する膨張力の産物としての経済や軍事を中心とする帝国主義」「膨張の源泉が周縁や植民地社会の状況や危機に由来する帝国」「国家間の力の差に基づく国際システムに由来する帝国」を定義する。(2)

アレクサンダー・モティルの研究では、「帝国とは集権的な組織を持ち領域的な中核を持ちながら、中心から文化的に区分される人々が周縁に住んでいる国家」「中心のエリートが周縁のエリートに対して独裁的な関係を持つ政体」と定義する。(3)

スティーブン・ハウの研究では、「帝国とはもともと国境外の領土を支配する巨大な政治体で中央権力、中核となる領土が有り、通例はその住民が体制全体の支配の座を占める民族集団を形成し、広大な被支配地域となる周縁は征服により獲得する」とし、これらを踏まえて「帝国」とは中央集権のもとに異質な民族や地域を統合する政治システム」と定義する。(4)

山本有造の研究では、「帝国について多民族国家と独裁国家の特徴を強調し、「独裁的多民族国家の特殊類型」」として捉える。また「帝国の源泉は中心部にあり、周縁の事情がそれを「変圧」あるいは「増幅」する条件」として補完的に理解する考え方である。(5)

山室新一の研究では、「国民国家を基礎に成り立つ近代の「国民帝国」は、古代の世界帝国と違い、多数の帝国が同時に競争しながらも利害を調整する「共存体制」を認める存在」であり、また「近代の帝国」は「国民帝国」として「主権国家体系の下で国民国家の形態を採る本国と異民族遠隔支配地域からなる複数の政治空間を統合していく統治形態」と定義する。(6)

杉山正明の研究では、中央ユーラシア、特にモンゴル帝国の盛衰に関する知見も縦横に活かして、「帝国」を「10種類のあり方」「規模による5つの類型」「変遷の7区分」「地域別8パターン」「中央ユーラシア型帝国の13の特徴」などの仮説に基づき大胆かつ精緻に提示している。このうち、「中華帝国」の分析にあたって特に参考になるのは、「帝国の規模による5類型」で、これには「世界帝国」「文化世界、文明圏単位の帝国」「中小規模の帝国」「帝国と王国の間の帝国」「地域型と横断型の国家」がある。(7)

2)本ブログで取り扱う「帝国」概念の定義

前項の内容を踏まえ、本論文で取り扱う「中華帝国」を分析する際に用いる「帝国」の概念は、以下の3要素を満たすような政治体制と定義する。

①異質の民族的な基盤を持つ行政的、領域的な組織を、宗主国と植民地、中心と周辺、中心と辺境という関係を基盤として、中央の集権的権力の下に統合する政治システムを持つ(8)

②異民族を統治、統御する政治システムの内部では、民族的相違を基に複数の領域に分割され階層的な秩序が形成され、周辺部では間接的な支配が行われている(9)

③内部における支配と被支配の関係が、「強力な中央統治機構を備える中心」「中心の影響を受ける周辺」及びその両者を結合する「政治的要素、経済的要素、イデオロギー的な要素」の三者で形成されている(10)

2.現代における超大国は帝国化しているのか?

ここまで先行研究も踏まえて見たような形で「帝国について定義」してきたわけですが、それを今日の世界にあてはめ、現在の世界情勢を「帝国」も主要なキーワードにしながら読み解くとともに、今後の我々が執るべき戦略を構想していこうというのが、本ブログの目的になってくるわけですが、それでは今日において「帝国の現状」はどのようになっていると考えるべきでしょうか。

詳しくは、本ブログ全体を通して検討していくことになりますが、ここでは大まかな基本認識を述べたいと思います。

まず、現時点において未だに最大最強の超大国と目されるアメリカは、国内では民主主義、国際的にはアメリカの勢力範囲内外で「正義・大義」を振り回して軍事的・政治的・あるいは謀略的な介入を繰り返してきた存在と認識していますが、これはやはり「帝国」的な存在であると理解すべきではないでしょうか・・・
日本も、そのアメリカ帝国の枢要な?一部として組み込まれているわけですが、特に同時多発テロに過剰反応したブッシュ政権以来イラク、アフガンを中心とする、いわゆる中東地域への軍事介入やウクライナ情勢への関与などが印象的ではあります。

それに対抗する「帝国的存在」としては、かつての冷戦時代はソビエト連邦としてのロシアが、社会主義の仮面をかぶった帝国として屹立していたといえましょうが、1991年にソビエト連邦が崩壊して以来、2000年以降のプーチンによる再建の努力を経てもソビエト連邦時代の最盛期の威光はまだまだ蘇りませんが、その支配エリアの広さや国際的影響力の大きさ、殊に軍事力や謀略・戦略的行動の秀逸さからして、やはり「帝国的存在」であることは間違いないでしょう。

さらに今日では、「新興勢力」として新たな「帝国的存在」として売り出してきたのが中国ということになりましょうか・・・
ちなみに、中国の帝国性の検討に関しては本ブログの重要テーマの一つでもあるので、詳しく取り扱っていますが、現代の国際情勢にあてはめると皮肉なことに?!現存する最古の帝国的伝統を誇る中国も「新興勢力」という不思議な位置づけになりそうです・・・
ともかく、中国は主たる支配的な民族である漢族が、チベットや新彊、モンゴルなどの異なる文明圏を支配することで、国内的にも「帝国的な構造を有する」国家ではありますが、このところ特に一帯一路戦略なども推進する中で、国際的にも帝国的な存在としての地位を高めつつある、との認識です。
中国は2010年ごろにGDPで日本を追い越し、世界第二位の経済大国になりましたが、その後も経済成長を持続し安定的にアメリカに次ぐ経済力を誇るようになりました。

現時点では、米中の新冷戦が国際関係を読み解く最重要キーワードの一つに浮上しており、これまでのアメリカの歴代政権と発想が全く異なるトランプ政権誕生の遠因の一つとして、中国を正面から脅威として把握するバノン主義的な戦略の有効性がアメリカのサイレントマジョリティーに訴えた、というのもあるのかもしれません・・・

参考文献
(1)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p2
(2)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p2
(3)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p2-p3
(4)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p3
(5)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p3-p4
(6)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p4
(7)山内昌之:帝国と国民 岩波書店 2004 序章 ひきさかれた帝国 p4
(8)山本有造:帝国の研究 名古屋大学出版会 2003 第1章 「帝国」とは何か p10
(9)山本有造:帝国の研究 名古屋大学出版会 2003 第1章 「帝国」とは何か p10-p11
(10)山本有造:帝国の研究 名古屋大学出版会 2003 第1章 「帝国」とは何か p11-p12