アメリカ,中国,EU,イスラムの帝国的本質と統治構造!

ご訪問ありがとうございます。このブログではトランプ時代を迎えた世界の緊迫した情勢を「帝国」をキーワードに取り上げて様々な角度から分析しつつ、アメリカがアメリカファーストに走る状況下での戦後日本の総決算を筆頭に中国、中東、欧州の戦略の在り方を検討しようと試みております。このブログを通じて世界情勢や歴史に関する問題意識や知的好奇心を共有出来れば嬉しく思います・・・それではごゆっくりお過ごしください・・・

辛亥革命後の中国における支配正統性調達原理とは何か!

辛亥革命で皇帝専制や天下思想・儒家正統の伝統が崩壊した後に、近代国家としての中国において、指導者たちがその支配正統性をどのように調達してきたのか?!ということを、日本やドイツの近代化の過程とも比較しながら検討していきたいと思います。

1.中国における近代化国家建設への課題
 1)全欧洲並みの巨大帝国を統治する方法
 2)中国におけるナショナリズム発生の道筋
 3)中国における大衆の政権支持の基準
2.中国と日本における近代化のモデル
 1)近代化のモデルとしてのドイツ帝国
 2)日中独に類似する近代化に向けた環境
3.辛亥革命後の中国統治の正統性の根拠
 1)中華民国における正統政府とは何か
 2)孫文政権を引き継ぐ国民党政権
 3)中華民国における「帝国性の証明」

1.中国における近代化国家建設への課題

1)全欧洲並みの巨大帝国を統治する方法

辛亥革命以前の中華世界は、「儒教哲学」「天下大一統」を中核とした集権国家であったが、その領域はまさに「天下」という呼び習わし方を裏打ちするように、ウラル以西の欧州全域に匹敵する巨大な帝国であった。さらにその実態としては中華世界=中華天下は、そのまま放置すればバラバラに分散しがちでモザイク社会的要素が強くなる傾向があり、それを食い止めるためには「強力な中央集権力」と「イデオロギーの統一」が不可欠であるという要素が色濃い国家であった。
このような基本的な成り立ちを背景とするために、必然的に成立してきたとも言いうる皇帝専制支配体制においては、「大衆は政治的な決定から排除されており、知識階層による排他的な賢人支配が成立」(1)していた。
すなわち、まさに天下の名にふさわしい巨大帝国を長期的に安定して統治し維持していくためには、集中と分散のバランスを確保するための統治技術の習得が必須の課題であり、それは到底市井の普通の人々=一般大衆がよく行いうるものではなかった、とは言いうるであろう。

2)中国におけるナショナリズム発生の道筋

このような巨大に過ぎる「中華帝国」はある意味では天下としての世界そのものであり、国家ではないという観念が一般的で、世界そのものについてナショナリズムは成立しえない状況が有り、近代的国際秩序に当てはまるようなネーション化が困難であった。(2)
近代ナショナリズムは、統一的な権力・軍隊・国家意志・市場を基本とするが、中華世界的な状況下でこれらが民衆に根付くのには時間がかかった。一方で人民大衆から観た場合には、ここに提示された統一志向が権力の正統性の判断基準となった。いずれにせよ、「統一」は、中華民国全期にわたる中心課題となっていた。(3)

3)中国における大衆の政権支持の基準

中国の人民大衆にとっては、近代国家の要件やナショナリズムの問題よりも、権力者が統一志向を有しているかどうかが、その政権を支持するかどうかの主たる基準となっていた、ということである。
辛亥革命に主体的に参加することの無かった、人民大衆の意識は革命前後で大きな変化は無かったということかも知れない。人民大衆にとっては、天下が崩壊して分裂し、自分達の住む世界が訳のわからないものに変化することを恐れる、非常に保守的なイメージで、統一を志向していたのではないか、とも想定される。
  

2.中国と日本における近代化のモデル

1)近代化のモデルとしてのドイツ帝国

元来中国が天下の中心である間は、伝統的な農業国家で十分であったが、列強の侵略により、このような伝統的な天下概念は覆された。このため列強に追いつく方策として、何よりも軍事力と産業力を高めることが喫緊の課題となった。こうした中で、歴代の政権あるいは革命運動家は理想の国家像を、ビスマルク以来の富国強兵政策を強引に進めて後発資本主義国家として対応してきたドイツ帝国に求めた。プロイセンの軍国主義は、フランスとロシアという大国の圧力のもとで自国の安全保障を図る一つの近代化のスタイルであったが、列強の圧倒的な軍事的経済的侵略に苦しむ中国が、プロイセン型軍国主義を採用して列強に対抗しようとするのは必然的な帰結であった。この後、北洋軍閥が国民党に最終的に敗北した最大の理由は、こうした産業化を上手くやり遂げられなかったことによる。(4)

2)日中独に類似する近代化に向けた環境

明治維新で日本がモデルにした国家もプロイセンであったことを考えると、日中独の置かれた当時の歴史的・政治的・軍事的環境が広い意味で類似していた有りようが浮かび上がってくるだろう。この後、両大戦から戦後を経て今日に至るこの三カ国の運命の変転は、他の国のそれを上回るようなまさに壮大な歴史絵巻の感があるが、それぞれ先行する列強の脅威に対抗する遅れてきた民族の精一杯の抵抗の姿としては感慨深いものがある。
  

3.辛亥革命後の中国統治の正統性の根拠

1)中華民国における正統政府とは何か

ここで中華民国における正統政府とは何かについて確認しておきたい。中国語で正統性は、法統と表現されるが、中華民国の政府は元来議会によってその正統性が付与されるシステムになっているので、辛亥革命後の最初の議会すなわち1912年の中華民国約法によって成立した議会の法統を継承する政権が正統政府と言うことになる。その後、北洋軍閥政府と広東国民政府との並立が発生するが、国民党政権が北伐統一戦争で勝利して南京国民政府が成立することで、中華民国の正統政府としての法統を受け継いだ。

2)孫文政権を引き継ぐ国民党政権

南京国民党政権は、北伐戦争完遂の中で政権を確立したのであり、それ以前の中華民国の政権とは異質な革命政権であったとも言えよう。とはいえ中華民国約法を産んだ母体が孫文政権であったので、国民党はその伝統に依拠した政権と言うことで、実質的には異質の政権でありながら国民党政権が中華民国の法統を継承した、と強調することが出来たのである。このように中華民国の歴史においても法統の持つ意義は大きかった。(5)

3)中華民国における「帝国性の証明」

辛亥革命以前のように天命による法統の行方が取りざたされる印象である。すなわち「天に革って議会が支配の正統性を付与」するはずの「中華民国の法統」が放伐=北伐統一戦争により国民党政権に移行して正統性を確保したということである。これは突き詰めると、まだまだ「天命が革まる」ということが「放伐革命」によることもあるということが、中華民国と言う同一体制内においても公認されていたということの証左かもしれない。「帝国性の根源」である「天命思想」は、このようなところにも息づいていたと言えようか。
本稿に関連して、以下のリンクでは辛亥革命後の中華世界を統治する役割を担った「中華民国=中国国民党政府」の課題と挫折の道筋について検討する。
孫文,蒋介石らの国民党政府による中国の帝国的秩序再建が挫折したのは何故か!

参考文献
(1)横山宏章:中国の政治危機と伝統的支配 研文出版 1996 第1章 中国の危機とは何か p20-p21
(2)加々美光行:中国の民族問題 岩波書店 2008 序章 中国の民族問題とは何か p5-p7 
(3)横山宏章:中国の政治危機と伝統的支配 研文出版 1996 第11章 中華民国の分析視角 p335
(4)横山宏章:中国の政治危機と伝統的支配 研文出版 1996 第11章 中華民国の分析視角 p335
(5)横山宏章:中国の政治危機と伝統的支配 研文出版 1996 第11章 中華民国の分析視角 p336-p337

-辛亥革命の遺産!
-, , , , , ,

関連記事

皇帝支配の根拠たる天命の論理と資格なき皇帝を人民が排除する易姓革命の論理!

辛亥革命以前の清朝までの中華帝国の皇帝による支配の根拠として、天・天下・天子・天命の論理と暴虐で資格のない皇帝を人民が抵抗によって排除する易姓革命の論理を検討していきます。 1.近代以前の中華帝国の枠 …

辛亥革命で中国が直面した近代国家建設の課題の分析!

辛亥革命で孫文やその後継者である蒋介石らが直面した近代国家建設の課題を中国特有の天下国家としての帝国的秩序の再現や外来文明への対応などの視点も踏まえ、イスラム世界帝国の近代化状況とも比較しながら分析を …

辛亥革命後の中華民族概念構築と中華国民国家への変容の検証!

辛亥革命後の中華民族概念構築と中華国民国家への変容の検証と言う観点から、孫文による辛亥革命の意義をただ単に大清帝国の皇帝支配体制からの政治的脱却のみの視点だけでなく、漢族以外の少数民族も包含する中華民 …

中華帝国の皇帝支配と習近平による天命思想,中華天下再建の動向!

始皇帝による天下大一統・皇帝支配の確立以来盤石を誇った?!中華帝国は西欧列強の圧力の下で遂に天命を失い、辛亥革命の影響もあり崩れ去りましたが、今や鄧小平のような慎重さをかなぐり捨て、内外で中国のパワー …

中国共産党の帝国再建と中華大一統復活成功の理由について!

中国共産党の帝国再建と中華大一統復活成功の理由についてということで、天安門事件の顛末を子細に観察するまでもなく、少なくとも1949年10月の政権獲得以来どこからどう見ても専制的な一党独裁体制を堅持して …

袁世凱の功績は辛亥革命の徹底と中華大一統システム破壊にある!

  袁世凱の功績は辛亥革命の徹底と中華大一統システム破壊にあるという観点から、袁世凱の歴史的功罪を検討する時に等閑視されがちな、清朝の崩壊=辛亥革命で果たすべきだった体制の根底的な刷新を成し遂げた人物 …

辛亥革命後の国民党政権の帝国的秩序及び大一統維持への課題!

辛亥革命後にイギリスを筆頭とする植民地帝国の進出の中で脅威に晒されながらのヨチヨチ歩きともいうべき近代化を進める中華民国,国民党政権が帝国的秩序再建や中華大一統維持に向けて取り組む中での非常に困難な課 …

辛亥革命後の中国の特殊で非西欧的な近代化過程の困難さについて!

辛亥革命後の中国の特殊で非西欧的な近代化過程の困難さの背景には中華民国・国民党政府指導部の実力の問題以前に中国の特殊性が影響したことを、比較的順調だった西欧諸国の近代化との道筋の相違や中国の近代化過程 …

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

9,999人の購読者に加わりましょう