⭕️台湾の民主主義を死守する蔡英文は文革路線の習近平の最大の脅威か?

2023年6月10日

台湾の民主主義を死守する蔡英文は文革路線に舵を切った習近平の最大の脅威という観点から、改革開放以来のこれまでの鄧小平が指示した経済重視・対西側協調路線を完全に逸脱し、中国共産党というよりもどちらかというと習近平の私党と化したかのような体制翼賛的な方向性がグロテスクに突出するような印象の中国指導部の状況ですが、2020年7月1日の香港に対する国家安全法=事実上の治安維持法の施行の強行以降、強引な3期目突入まで・・・当に習近平個人の正体を自ら白日の下に晒す暴挙といえましょうか・・・

香港民主化運動の女神とも称され、アキバをこよなく愛するヲタク女子・周庭(アグネス・チョウ)氏は、この法律が施行されいつ逮捕されるかも判らない状態と想定されながらも、まさかあり得ないだろうと思われていたことが遂に発生してしまいました。
すなわち、2020年8月10日の夜の段階で周庭(アグネス・チョウ)氏は逮捕されました(周庭氏は、この時はすぐに8/12未明に釈放されました。その後、忘れたころにでもありませんが・・・2020年11月23日に裁判所に出廷して、そのまま保釈が認められず収監された、ということです)
国家安全法は、一応過去に訴求して罪を問わないとされているので、少なくとも周りを混乱に陥れるのを回避するためとの意向もあり、中道左派とされ民族自決・非暴力抵抗路線を掲げた政党=香港衆志は指導部自ら解党しており、何をどのようにひっかけて周庭(アグネス・チョウ)氏を当該法律で逮捕したのかは、よくわかりませんが、強いて言えば「国外マスコミのインタビューへの応答」や特にYoutubeの周庭チャンネルでの同法成立以降の二回のアップ内容ということになりましょうか・・・
確かに「国外マスコミインタビュー」よりも周庭チャンネルの方がはるかに怪しく危険な感じはありましたが。。。
ちなみに、このYoutubeの周庭チャンネルについては、保釈後のライブと称して逮捕から保釈されるまでの有り様を描写していましたが、なかなか「面白く鑑賞」しました。一つ周庭(アグネス・チョウ)氏に要望があるとすれば、日本語の呼びかけが終盤のほんの数分にとどまっていたので、もっと進めて日本のコロナ対策を評していた時のように日本向けの大々的なアピールをやってもよいかもしれないですよね・・・例えば逮捕拘禁中に周庭(アグネス・チョウ)氏の頭に浮かんだという欅坂46の大ヒット曲「不協和音」の中の「僕は嫌だ!」を絶叫してみたりとか・・・
Youtube上のコメントを観ても、今回の逮捕保釈劇のショックで、日本を動かす中核的人材層ともいうべき、ヲタク的な階層が世界政治に眼を向けるという劇的な効果も発生しているような気がしましたが、ここらを完全に巻き込むには付け足しの数分間の日本語コメントではなく、もっと徹底的にやったらどうでしょうか・・・
ほとんど何もしていないのに、逮捕から起訴までされそうな昨今の情勢でもあり、ここまで来たら中途半端に当局の顔色を伺うことをやめて、徹底抗戦しかないかも知れませんが、まあまあ過激なデモ行進や親中派の拠点を攻撃していては香港市民の反発を買うだけなので、意外に世界的にも発信力があり、信念とパワーを秘めた日本のヲタク層を味方につけることで香港の未来も開かれるやもしれない・・・とふと思いました・・・

それにしても、周庭逮捕までは、「あの法律の条文を観ていると香港人以外の外国人が、香港独立を志向するような意見を表明して、アグネス・チョウ氏への連帯を強く主張したりすると何だか中国管轄のエリアに入った瞬間に逮捕されそうで怖いですねえ・・・」というような漠然とした印象で認識していましたが、私だけでなく世界の多くの市民が身近に差し迫った危険があるのを感じざるを得なくなりましたね。それでも西側先進国の国内で中国工作員が反中派を逮捕しまくる展開は、当面は流石にあり得ないでしょうが・・・

私も大連あたりにはプライベートな用事でよく出かけますが、こういうサイトで習近平批判を繰り返したりするといきなり、大連周水子国際空港にて突如収監ということになりはしないかと、真剣に心配になりました・・・
アニメのガチヲタクで日本語を独学で学び、アキバにも詳しいアグネス・チョウ氏が、当面早急に保釈され安全な国外に脱出することを願うばかりと言う形勢ですかねえ・・・保釈タイミングが意外に早かったのは逆に驚きましたが、まあまあ本人は政治亡命は本意ではないかも知れません・・・今後の香港での活躍を期待しますが、習近平という事実上の終身皇帝がいる限りまず無理でしょうかね・・・

本来、香港への連帯と自由民主への道筋への主導者たるべきアメリカは、トランプの指導下で新型コロナ・黒人暴動・経済混乱の真っただ中にあり、ウクライナ危機の時のような西側の結束も極めて不完全な状態に陥っている今、習近平の蛮行を抑える存在は地上から居なくなったようにも見えましたが、トランプはトランプなりにポンペイオ国務長官らの包括的な反中国的な発言を通して、かなり有効な打撃を与えることに成功している感もあります。tiktok、WeChat、Huaweiの西側からの完全排除が成功すれば流石にいろいろな意味で中国も傷つくことになりそうです。
ちなみに、周庭逮捕による日本のヲタクの怒りの矛先も舐めてもらっては困りますが・・・

ともかく、香港問題の一方の当事者であるイギリスのジョンソン首相が、香港市民に対して圧政からの脱出希望者へのイギリスへの緊急避難可能性の広範な提供を呼びかけ、中長期的にはイギリス市民権の供与も視野に入れていると示唆しているのは希望の光かも知れませんが、西側民主主義国としても自由な香港を見捨てて、中国の好き勝手にさせるわけにもいかないというところではあります。

欧米も武漢でのロックダウンの顰に倣って、中国を模範にした新型コロナ対策に走り、一定の成果を収めた欧州諸大国も中国風のシンプルで結果に直結する方法論に爽快感を感じたかもしれませんが、今回の香港での中国の暴挙に眼を覚まし、中国的専制手法の問題点を再確認しつつ、自らの自由な市民による民主主義的な統治の伝統への誇りと矜持を取り戻しつつあるのではないでしょうか・・・

その後、周庭(アグネス・チョウ)氏は、特に酷い洗脳工作に晒されることもなかったようで、2020年8月12未明に釈放されましたが、そういう警告だけのような見せしめ的な逮捕劇は逆に世界の世論を益々中国共産党から引き離すだけなわけで、ちょっと習近平指導部の昨今の言動が、陰謀論というか二重スパイほど過激な行動や組織誘導を行って、逆に組織を巡る混乱を引き起こし組織や体制を壊滅に追い込むことがあるという、革命闘争に紛れ込む二重スパイの論理を思い出しました。
私のように結構中国そのものが好きで、良い意味での復活を期待する人間からすれば、習近平指導部の昨今の政治的な動きは当に反党反中の最悪の結果を惹起しており、その動きを抑えないと逆に体制転覆の危機が差し迫ってくるのではないかと考えざるを得ません。
これはある意味では米中冷戦の一方の当事者たるアメリカのトランプ政権がラストバタリオンに乗っ取られており、一方の極のはずの中国共産党指導部があたかもCIAのエージェントのように必死で反中国反共産党キャンペーンを展開しているような風情もあるわけです。。。
特にコロナ対応は計算出来なかったので、多少初期に隠蔽や情報操作があってもやむを得ないところもあったと情状酌量の余地はありますが、香港問題は鄧小平や胡錦涛のような指導者であれば絶対に打たないトンデモナイ手を繰り返しており、とても見ていられない有様に中国の立場を追い込んでしまいました。
ほんの少し前まで、習近平はトランプのマル・アラーゴの別荘に招待され、習近平が最高の礼をもってトランプを紫禁城で接待するという状況がありましたが、今や隔世の感と言わざるを得ません・・・

一方で「中華民族の国家」として史上初めて完全に民主化を達成した台湾が、中華帝国以来の専制的な独裁による支配体制を堅持する中国共産党の絶対的な権威に与える破壊的なインパクトは、西側先進国からの民主化圧力よりもはるかに危険である、というのが私の認識ですが、意外に世界的に台湾の重要性が強調されることが少なすぎるような気がするのは私だけではないと思うんですが・・・
そういう意味でも、中国共産党・習近平体制の露骨な圧力を跳ね返し、蔡英文総統が圧倒的な得票で再選した総統選挙の意義は、やはり非常に大きいということになるんでしょう・・・
すなわち、中華民族と民主主義は相性が悪いとは絶対言わせないぞ。。。とでも言うべき強い意志が台湾の選挙結果から明確に感じられるような気もするところです。

民主化した台湾の存在が中国共産党一党独裁に与えた衝撃

中国共産党による「伝統的な賢人政治」がいつまでもつのか?

民主化された台湾の存在は、現在も「伝統的な中華帝国の枠組みを堅持する中華人民共和国」にとって強烈なインパクトを与えていると言えるのではないだろうか。改革開放の進展に伴い、特に沿海部の経済発展は目覚ましいものがあるが、そういう中で「沿海部の中産階級の政治意識」に対して、いつまでも「伝統的な賢人政治」に依拠した発想が通用するのかは疑問もあるかもしれない。

台湾が自ら選び取った議会制民主主義の重み

少なくとも同じ「中華民族」が、他から与えられたものではなく、自ら選びとって議会制民主主義を達成し、曲がりなりにも安定して運営しているというのは、1989年の天安門事件でそのような要求を武力で弾圧した共産党指導部にとって頭痛の種になりかねないだろう。
国内の「平和的民主化」と海外のインフォーマルな経済活動を展開する「台湾経験」は、共産党の一党独裁に固執する中国へのソフトな挑戦として、中華世界の変容を促す世界史的意義を有している。

中華世界で民主主義運営が可能なことが証明された衝撃

それはまた「家産官僚制」や「東洋的専制主義」と呼ばれ、現在でも「皇帝型権力」の政治的伝統を有するとされる中国に対して、同じく華人社会の一員である台湾において西欧型の議会制民主主義が実現されたことによる中華世界へのソフトな知的挑戦でもある。(1)

台湾の民主化はどのように達成されたのか?

それでは、台湾の民主化が何故達成されたのかを検討してみたい。

権威主義体制から民主主義体制への移行の前提条件

権威主義的体制から民主主義的体制への平和的移行には、「一人あたりのGNPに換算した経済成長」「教育の普及がもたらす識字率の向上」「社会の多元的価値を代表する中産階級の台頭」といった要因と「政治的自由化、民主化の相関関係」を検討する必要がある。(2)

国家と社会の微妙な距離感と利益調整メカニズムの構築

このような前提に立って、民主化を実現するためには、国家と社会との間に適度な距離が必要であり、国家は多元化する社会に対してどのように具体的に利益の調整をはかり、そのメカニズムの制度化を実現するために最大限の努力を払う必要がある。また民主化へ向かう体制移行の最中には、利益調整のメカニズムを具体的ろに発見して制度化するために国家と社会の双方がともに新たな争点でぶつかり合い、そこから妥協点を見出すという「学習のプロセス」が必要である。(3)

国民党と人民大衆の民主化に向かう共同体験の進行

こうしてみると「台湾の平和的民主化」とは、支配者としての国民党と被支配者としての野党や人民大衆が、そうした国家と社会の間に適度な距離を見出して、「具体的な体験」の中で幾多の危機に遭遇しつつ、民主化の必要性を認識してきた「学習のプロセス」を辿ってきたと言えよう。またこのような民主化過程が平和的に遂行されるためには、支配者と被支配者の間で、過度の暴力よりも適度の譲歩と妥協・調和をギリギリのところではかる方がコストが少ないということを認識する「学習のプロセス」も必要であった。(4)

伝統的な賢人支配のエリート政治を転覆させた台湾の民主化

李登輝と人民大衆による微妙なバランスのゲームの成功

「李登輝総統」と「野党、人民大衆」という政治的なアクターが、それぞれ「支配の正当性」と「政治参加の正統性」を体現しつつ利害の衝突と妥協を繰り返しながら、政治的「学習のプロセス」経験し、そこからバランスと調和を産み出す一定のルール・オブ・ゲームを確立してきた。
このことにより台湾政治の台湾化、民主化、ならびに中台関係の脱内戦化・共存状況の創出に一定の成功を観た。(5)

中国共産党にとっての改革モデルとして「台湾民主化」

このような微妙で繊細なプロセスを経て、流血を観ないスピーディーな民主化が実現した。中華世界の政治文化として伝統的な賢人政治・エリート政治が当のエリートの側から覆されたわけであり、このことは単なる民主化実現以上に奥深い意味が内包されているように思われる。台湾民主化は、現時点では中華人民共和国の政治体制に対して、重大な影響を与えているとは言えないであろうが、今後改革開放路線の行き詰まりや、官僚の金権腐敗、人権問題や民主化要求に対する体制側の後ろ向きな対応などがクローズアップされてきた時には、一つの改革モデルとして「台湾経験」が大きな意味を持ってくることも考えられる。

台湾民主化の評価と中華世界統治への影響

台湾民主化の中華世界への衝撃度

「中華帝国」という観点に立てば、台湾は漢人中心の社会とは言え、領域的には閉じられた島であり、到底「中華天下」を包括しているとは言えない。「台湾民主化」は言ってみれば「中華帝国の一省」レベルの話ということになるかもしれない。高度成長期の日本においても国政は自由民主党が盤石に支配している時期に、東京都知事に美濃部亮吉氏が当選して革新都政を展開していた、ということもある。同列には論じられないだろうが、全国支配と地方支配の差は歴然として存在するだろう。

「中華民族」が民主主義社会で暮らし続ける重み

それでは、省レベルは民主化可能だが、帝国全体は共産党が支配を貫徹するということがありうるかというと、これは中華大一統の原理に抵触しかねないとはいえ、香港の実例もあるので、一概には否定できないところである。清帝国には、内地と藩部と言う一国両制の伝統もあり、香港は一国両制の現代版と言うことになるが、台湾もその範疇でとらえられるかもしれない。
いずれにせよ、2000万人以上の大陸の中華世界に住むのと同じ「中華民族」が、完全な西欧型民主主義体制のもとで安定して暮らしている、という事実の大きさは十分にかみしめていく必要があるだろう。

それにしても、中国に果たして一国両制をどこまで維持するつもりがあるのかは、香港に対する中国の締め付けの強化で疑いの念を強めざるを得なくなってきている現状である。
そういう意味でも、世界の民主主義の最前線として台湾には今後も頑張ってもらいたいというのが、偽らざる本音である。

尚、本稿の延長線上で台湾民主化に関しては、以下のリンクでも取り上げています。
中国全土で西側民主主義実現が可能なことを台湾の民進党,蔡英文総統当選が実証!

<参考文献>
(1)井尻秀憲:台湾経験と冷戦後のアジア 勁草書房 1993 序章 世界史の中の「台湾体験」 p5
(2)井尻秀憲:台湾経験と冷戦後のアジア 勁草書房 1993 序章 世界史の中の「台湾体験」 p9
(3)井尻秀憲:台湾経験と冷戦後のアジア 勁草書房 1993 序章 世界史の中の「台湾体験」 p9
(4)井尻秀憲:台湾経験と冷戦後のアジア 勁草書房 1993 序章 世界史の中の「台湾体験」 p9
(5)井尻秀憲:台湾経験と冷戦後のアジア 勁草書房 1993 序章 世界史の中の「台湾体験」 p10