トランプのアメリカ再建に向けたアメリカファースト,米中対決戦略!

新型コロナウィルスの感染拡大の中で、これまでの世界の趨勢からすれば、対策の中心的な役割を担うことが期待されたはずのアメリカは、本国が世界最大の感染者・犠牲者を抱える現状に沈みこむとともに、当にアメリカファーストを地で行くアメリカ国内のみの景気対策や感染予防対策に狂奔しており、世界におけるアメリカの覇権やリーダーシップは異様に希薄な様相を呈してきていると言えましょう・・・

実はレーガン大統領の業績に憧れていると言われているトランプは、先年突如としてこれまで不倶戴天の敵と見做されていた金正恩との電撃的な首脳会談を実現するという離れ業を演じましたが、政権運営の根本のところでは失脚したはずのアメリカファースト革命の理論的支柱であるスティーブン・バノンと密かに連繋して手に手を携える二人三脚を堅持していた風情も散見されます。
いずれにせよ、トランプは相変わらずブレのない信念を貫きワシントンの既存エスタブリッシュメントの支配体制に背を向け、市民に国家を取り戻す活動に今も邁進しつつあるようです。

これまでもロシア疑惑、ウクライナ疑惑も含めて、次々に暴露される通常であれば致命的なスキャンダルを炎上商法のネタとして逆手に取り、逆に支持基盤拡大に繋げていく方向性も、当にバノン流を彷彿とさせるところがあります。

ちなみに、トランプの一連の人事や政策を追跡していると、国務長官のティラーソンからポンぺオへの交代やマクマスターからボルトンへの国家安全保障担当補佐官の交代、さらにそのボルトンも政権を去る展開となるなど、強硬で自国産業防衛を主眼とする対中国制裁の発動を皮切りに、遂には米中新冷戦の様相を呈し始めた中国封じ込め政策の急展開など、当にバノン主義が大手を振って政権中枢を支配しつくしている形勢となっていました。今後再び大統領選に向けてどのような秘策を繰り出してくるのか、まさに目が離せない展開となってきています。

トランプの政策の目玉である減税とインフラ投資はどのように実現されるのか

ロナルド・レーガンの業績に憧れるドナルド・トランプ

本件については、トランプの心酔しているらしいロナルド・レーガン時代の方針を援用してくるのではないか、とも認識しているところです。
かつてのレーガン時代には「減税+軍拡」を中核にレーガノミックスとも称される経済政策を遂行し、前任者のジミー・カーター政権時代の閉塞した状況を脱却させ、いわゆる規制緩和や新自由主義的な方向性もはらみつつ、実質的にケインズ流の経済効果を生み出しました。さらには副産物として、軍拡についてこれなかったソ連が、ゴルバチョフの過激な変革路線の影響で一方的に弱体化して、予想以上に早く冷戦が終結することで、平和の配当も獲得するというラッキーな状況もありました。

ちなみに、レーガン時代は「軍拡による景気拡大政策」だったため、実際のところ「軍拡で製造された武器を消費するために中東が戦場として活用」されたり、「アメリカ軍の積極的な直接介入につながってアメリカの人的な被害が増大」したりといった「負の要素」もありました。それに対してトランプ氏の場合は、より平和的に「インフラ投資に1兆ドル規模の莫大な投資」するということでもあり、本来は「意外にリベラルな知識層や平和主義者といった民主党支持層にも浸透しやすい」はずではあります。

トランプによるミラクル実現の可能性

トランプ氏の政策により莫大なインフラ投資を行った場合に、景気拡大や税収増大に関して瞬時に効果が出てくるとは考えられません。
そういう中で、大型減税が先行して実施されれば、インフラ投資と景気拡大、税収増大の間のタイムラグの発生により、一時的な財政不均衡が生じてくるのは間違いないところでしょう。
そうなった場合に喫緊の課題になってくるのは、多少細かい話になりますが、ある程度までの債務拡大を時限的に容認するためのアメリカ議会の財政再建派の議員たちの説得と経済運営円滑化のためのドル安容認に向けた金融緩和策の推進ということになりましょう。

ちなみにアメリカの大企業も、特にリーマンショック以降は突発的な経済の危機的な状況に対応するために、その儲けを賃金に回したり、設備投資などに回さずに、内部留保として蓄えることに専念しており、その額が巨大化しているようです。
現時点では、既にアメリカの証券市場がトランプの新経済政策に期待して堅調に推移している流れがありますが、その延長線上でトランプ政権の1兆ドルインフラ投資が実行に移され景気拡大の機運が漲ってくれば、各企業がその莫大な内部留保を設備投資や賃金などに回して、経済が活況を呈して、税収増大につながる可能性もあるかも知れません。

2016年の大統領選挙を全体的に観ても、トランプという人物は到底不可能と考えられていた合衆国大統領に当選するという偉業を、マスコミやワシントンのエリートに屈服することなく、バノン氏と二人三脚で構築した自らの信念を貫きつつ自分流のやり方で成し遂げました。
そう考えると、トランプ氏が選挙の奇跡に続いて、経済の奇跡を実現出来ないと誰が断言できるでしょうか?!

大統領再選を目指すトランプはバノンのアメリカファースト路線から足抜け出来ない

バノン氏のアメリカファースト路線とコアな支持者の強い連関

今後、トランプが再選を具体的に視野に入れる場合に、コアな支持者から遊離したオバマモドキの中途半端なリベラル路線やグローバリスト路線を採用することは、まさに命取りということになりかねません。
そういう意味では、例え一時の気の迷いで、イヴァンカ・クシュナー夫妻やティラーソン国務長官らの良識派的な路線に歩み寄ったとしても、政策の基調や世界観をマスコミ受けの良い、リベラルで進歩的な路線に全面的に変更するのは、到底出来ない相談である、と言わざるをえないでしょう。

結局、トランプには、どう転んでもバノンのアメリカファースト革命路線という反エスタブリッシュメントで反グローバリズムを基調とし、マスコミを敵にまわしつつ、繁栄の光と陰の陰の部分の代弁者として、世論の分断を厭わず、アメリカファーストを追求する方向性しかない、と想定されます。
このような、ブレない路線の副産物とでも言うべき結果として、2017年6月末の段階で、かつて物議を醸し、全米あるいは全世界的に混乱を巻き起こしたあの政権発足初期のイスラム圏六カ国からの入国制限に関する大統領令が、ここへ来て連邦最高裁から一部制限付きながら執行許可という形になりました。
これは、トランプ政権にとっては、久々の政治的な勝利というべき成果となりそうですが、当該イスラム圏六カ国からの入国制限に関する大統領令を主導したバノン首席戦略官にとっても、政権内部での権力闘争を益々有利に展開する手札と言えるでしょう。
トランプも、再選を念頭に遊説先で支持者を前にアメリカファーストの線で演説する時には、熱狂する聴衆のパワーを体感しつつ、常にバノン氏の存在感の大きさを再確認し続けているのではないでしょうか。

バノン主義が主導するトランプ政権の継続

ちなみに、トランプ政権内で良識派、国際派と目されるイヴァンカ・クシュなー夫妻やマクマスター、ケリー両補佐官らと権力闘争、路線闘争に明け暮れたバノン氏ですが、2017年8月段階で遂にホワイトハウスを離れ、古巣のオルトライト系ニュースサイトであるブライトバートからも手を引き、現在はより自由で過激な立場からアメリカファースト路線を唱道することを選択したようです。
反エスタブリッシュメントの旗手であるバノン氏がホワイトハウスの中枢であたかもエスタブリッシュメントの本丸に居座るというのもかなり、戯画的ではありましたが、今後は自由なフリーハンドという強力な武器を手にし、ホワイトハウス中枢=トランプ個人により効果的に働きかけることで一層の混乱と波乱要素を世界に提供しそうな雲行きを感じさせます。
ともかく、バノン氏はホワイトハウスで首席戦略官という中枢の地位にトランプ政権発足以来の数か月間就任していたという事実は誰も否定出来ないわけですが、これまでのアメリカの政治史上でバノン氏のような徹頭徹尾アウトサイダーで、現体制=エスタブリッシュメントをアンシャンレジームとして粉砕することを目指して政権入りした人物は居ませんでした。
このことは、トランプ政権の存在意義として、どんなに強調しても強調しすぎることはないほどの画期的な事象であると言えるでしょう。
たとえバノン氏がホワイトハウスから離れたとしても、いわゆる極右、オルトライト、アメリカ至上主義がアメリカの政権を一時的にもせよ乗っ取った事実は覆い隠しようもないことです。ただし、バノン氏も流石に自らの政治信条でホワイトハウスの中枢を運営するほどの準備は、未だに整っていなかったため、一時的に下野して戦線を整理し、より本格的で徹底的で、具体的な政治的果実をつかみ取る方策を再確認する必要に迫られたということになりましょうか。

確かに、これまでワシントンを牛耳ってきたエスタブリッシュメントに対して、理想主義的な政治信条と正義感、使命感のみで闘いを挑んでも、あたかもドン・キホーテのように弾き飛ばされて、何の成果も得られず無力感に苛まれるのが落ち、となりかねません。
しかし、トランプを大統領に押し上げたアメリカのこれまで置き去りにされてきた人々の強い怒りや真の改革への切望が、渦巻いているのも紛れもない事実なのであり、そのような市民のパワーを今度は政策実現に向けて分散化することなく結集し組織化して、政治的な梃子として汲み上げていくことが必要になるでしょう。
このあたりは、毛沢東が中国の農村で農民層を極めて巧みに組織化して、革命のパワーに仕立て上げた実例も参考になるのかもしれません。
バノン氏も、そのあたりの事情に気づき、一旦政権中枢から離れて、市民の怒りや改革への情熱に再度火をつけて、炎上させ、そちらから政権を動かす道を選んだのではないでしょうか。
この路線の延長線上で2017年9月にはバノン氏は、アラバマ州上院補欠選挙において候補者を擁立して選挙戦を闘って勝利した結果を踏まえて演説し、共和党主流派の候補者を破る選挙結果を「革命」と表現した上で、「今後もエスタブリッシュメントを完全に打倒するまで闘いを継続する」と高らかに宣言しました。
バノン氏は現在もその延長線上でトランプが真に推進しようとしている「既存エスタブリッシュメントの打倒と市民に政治の主導権を取り戻すためのアメリカファースト路線」に密着して、強力に活動を進めていく方向性を明確に示しているもの、と考えられます。
ともかくトランプはバノンが主導したアメリカファースト路線を推進する、と言う構図の中で船出したわけですが、その後の推移を見れば国務長官人事、国家安全保障担当補佐官人事、対外政策としても対中国制裁の発動などバノン主義的なアメリカファースト路線まっしぐらのあり様も見え隠れしています。

ともかく、トランプは現実に妥協する中道的な生き方は選択しないようであり、不動産王として行き詰まった時にも言われていましたが、今後も『全てを手に入れるか、何もかも失うか』という究極の生き方を常に宿命づけられた人物ということになりそうです。

尚、本稿の延長線上でトランプのラストバタリオン的な性格を詳しく分析した以下のリンクもご参照ください。
トランプ=ラストバタリオンのアメリカ乗っ取り=ナチ化とエスタブリッシュメント側のマスコミやマイノリティを巻き込んだ反撃がアメリカ大混乱の真相である!

トランプは米中冷戦や強硬な移民政策を強行しつつ大統領再選に向け人民独裁的手法のバノン主義=アメリカファースト路線を堅持する!